エリート外科医といいなり婚前同居

発売するのは知っていたが、販売する店舗も個数もかなり限られていたため、紅茶好きの俺でも手に入れるのは諦めていたものだ。

橋本は目の色を変えた俺に気づいて、妖しげな声色で誘惑する。

「欲しいか? 欲しいだろ? お前のためにわざわざ並んで買ったんだ」

「そうか。それなら、ありがたく頂戴して……」

スッと手を出すと、橋本は缶をひょいと高く掲げて、交換条件を提示する。

「タダで渡すとは言ってない。千波さんに会わせてくれるなら、だ」

……やっぱりそういうことか。

こんな物を用意してまで千波に会いたいとは、物好きなヤツ。

千波を他の男に会わせるのは正直気が進まないが、橋本ならそこまで警戒しなくてもいいか……。しばし逡巡したのち、俺は仕方なく彼の条件を呑むことにした。





病院を出る前に千波に連絡を入れると、突然同僚が訪問することを快く了承してくれた。

帰宅途中の洋菓子店で橋本が土産にとケーキを買い、マンションに着いたのは十九時頃だった。

「おっじゃまっしまーす!」

「声がでかい。近所迷惑だ」

いやにテンションの高い橋本をたしなめていると、俺たちの声を聞きつけた千波が玄関まで出迎えに来てくれた。

「おかえりなさい、礼央さん。それと初めまして、橋本さん。紺野千波と申します」


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