エリート外科医といいなり婚前同居
発売するのは知っていたが、販売する店舗も個数もかなり限られていたため、紅茶好きの俺でも手に入れるのは諦めていたものだ。
橋本は目の色を変えた俺に気づいて、妖しげな声色で誘惑する。
「欲しいか? 欲しいだろ? お前のためにわざわざ並んで買ったんだ」
「そうか。それなら、ありがたく頂戴して……」
スッと手を出すと、橋本は缶をひょいと高く掲げて、交換条件を提示する。
「タダで渡すとは言ってない。千波さんに会わせてくれるなら、だ」
……やっぱりそういうことか。
こんな物を用意してまで千波に会いたいとは、物好きなヤツ。
千波を他の男に会わせるのは正直気が進まないが、橋本ならそこまで警戒しなくてもいいか……。しばし逡巡したのち、俺は仕方なく彼の条件を呑むことにした。
*
病院を出る前に千波に連絡を入れると、突然同僚が訪問することを快く了承してくれた。
帰宅途中の洋菓子店で橋本が土産にとケーキを買い、マンションに着いたのは十九時頃だった。
「おっじゃまっしまーす!」
「声がでかい。近所迷惑だ」
いやにテンションの高い橋本をたしなめていると、俺たちの声を聞きつけた千波が玄関まで出迎えに来てくれた。
「おかえりなさい、礼央さん。それと初めまして、橋本さん。紺野千波と申します」