雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません

キラキラの営業スマイルで答える雨宮。
もともと仕事の時の愛想は良い方だと思うけど(普段は不愛想)、今日は一段とニコニコしている気がする。
大企業会長の娘さんだから?
それとも、”瑛士さん”と、呼ばれる関係だから?
愛花と目が合う。
くすっと笑われた気がして、陽和が何となく嫌な気分になった。

愛花「そちらは?」
雨宮「あぁ、新しく入った秘書です。花里、挨拶して」
陽和「はじめまして、秘書の花里と申します」

雨宮からもらったばかりの名刺入れから名刺を取り出し、愛花に手渡す。
それを愛花は舐めるように見てから、「へぇ」と呟いた。

愛花「食品管理アドバイザー」
陽和「……はい」
愛花「そうしたら、うちのアドバイスも花里さんにお願いしようかな」
雨宮「すみません、そちらについてはまだ研修中でして」
愛花「構わないわ、うちな女性専用のフィットネスだから、女性目線で考えられるアドバイザーが欲しかったの。花里さん、お願いできる?」

返事に困った陽和は雨宮の方に視線を向ける。
雨宮は営業スマイルを顔を張り付けたまま、微かに頷いた。

陽和「まだまだ未熟ですが、よろしくお願いします」


**

商談が終わり、陽和はトイレに向かう。
手洗いスペースの鏡で陽和が髪の毛を整えていると、個室から愛花が出てきた。
陽和と鏡越しに目が合い、ニコッと笑う。

愛花「瑛士さんの専属秘書なんですって」
陽和「はい」
愛花「羨ましいわね」

鏡の前で、ピンクのリップを唇に塗る愛花。
その突き出した唇を見て、陽和はまた何か思い出せそうな不思議な感覚に陥った。

愛花「どんな手を使って秘書になったの?」
陽和「どんな手って、特には……」
愛花「そのスカート可愛い、ブラウスとよく似合ってる」
陽和「あ、ありがとうございます」

笑顔の愛花は陽和の方へ手を出し、胸元のリボンを思いきり引っ張った。
ブチッと音を立て、片方の紐が千切れる。

愛花「分をわきまえなさいよ。瑛士さんの前でそんなチャラチャラした格好をしないで」
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