雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません
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某レストランの外。
愛花を見送るため、雨宮、榊、陽和が並んで立っている。

愛花「瑛士さん、今日はありがとう」
雨宮「こちらこそありがとうございます」
愛花「花里さんも、今後ともよろしくね」
陽和「よろしくお願いします」

深く頭を下げる陽和だったが、その胸元を不自然に押さえている。
雨宮はそれにいち早く気が付いたようで――。

雨宮「先ほども申した通り、花里はまだ未熟なので、打ち合わせ等は僕を通して頂けますか?」
愛花「あら、瑛士さんの手を煩わせる必要ないわよ。ね、花里さん」
陽和「あ、ええっと」
雨宮「いいえ、花里は大事に育てていきたい人材ですので」

雨宮はそこで、言葉を切り。
愛花の目を真っすぐに見据えてから、

雨宮「個人的接触はご遠慮願います」

と、釘を刺すように言った。


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社に戻る車の中、後部座席で雨宮と陽和が並んで座っている。
陽和の胸元は、情けなくも安全ピンで止められている。

雨宮「だから、地味な格好で行けと言っただろ。あいつは昔っから僕の傍にいる女性を目の敵にするんだ。ちょっとでも小綺麗な格好をしていたらなおさらだ」
陽和「だったら、初めからそう言って下されば良かったのに」
雨宮「いくら密閉されている社長室とはいえ、クライアントの悪口を会社で言えるわけがない」
陽和「そうですよね、すみません」
雨宮「いや、ひよこが謝ることじゃないが」
陽和「愛花さんは、昔からのお知り合いなんですか?」
雨宮「あぁ、大学生の頃からな。何かと僕に接触しようとしてくる面倒な女だ」

社長でも面倒に思う女性がいるんだ。
恋人がすぐできると聞いたから、来るもの拒まずなのかと思ったけどな。


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