雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません
〇AMAMIYAFOODS給湯室(夕方)

人のキスシーンを立て続けに目撃してしまうとは。
何かの苦行ですか、そうですか。

給湯室で休憩を取っていた陽和は、そんなことを考えながら湯飲みを啜っている。
しかも、胸糞悪いのは目撃したことだけではなく、和奏の彼氏が浮気しているってことなのだ。
いや、そもそも和奏が浮気なのかもしれないけど。
いや、そもそも付き合っているってこと自体、和奏の妄想かもしれないけど。
どちらにしても傷つくのは、和奏だ。

陽和「(でも、黙っているわけにもいかないよね)」

よし、今日は早く家に帰って和奏と話すか!
そう気合を入れて立ち上がったところ、電話が鳴る。
それは、和奏のバイト先のマスターからで、「バイトの時間になっても来ないし、電話もつながらない。何かあったのでは?」という報告だった。
当然、心配になった陽和は上司である米山に事情を話し、早退させてもらうことにした。
そして大急ぎで会社から出たところ、目の前に車が停まったかと思うと運転席から榊が顔を覗かせた。

榊「あぁ、花里さん!ちょうどよかった!乗ってください」
陽和「え?」
榊「いいから早く! 和奏さんのところへご案内しますので!」
陽和「和奏の!?」

何が何だかよく分からないまま車に乗り込む陽和。
榊の話によると、雨宮から連絡があり陽和を連れてくるように言われたとか。
和奏の身に何があったかについて榊は聞かされておらず、ただ、こういう時の雨宮の予感は恐ろしほど当たるから言われた通りにした方がいいとのこと。

そして車が目的地に着いた途端、陽和は榊の制止も振り切り走り出した。
その途中で雨宮の姿を見つける。

陽和「社長!」

雨宮は陽和の姿を認めると、安心させるように小さく頷いた。
それから鋭い視線を正面に向ける。
そこにいたのは、和奏と、和奏の彼氏と、数名の男たちだった。
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