ヴィーナスパニック
お昼をさなちんと食べている時も、頭の中はいつノートを交換してもらいにいこうかってそればっかりだった。
ご飯の味がしない。
「――すみれ、聞いてる?」
はっ!いかん!ボーッとしてた!
「聞いてるよ!たい焼きは尻尾から食べる派だよね!?」
「聞いてないし。まあたい焼きに関しては同感だけどさ」
「もうっ」とさなちんに拗ねられるも、心配事が頭から離れない。
まず浅葱くんは滅多に見かけないから、今日中に返してもらわないといけない。
彼もノートがないと困るだろうし……と思ったけど、ラクガキしかなかったからそこは問題ない?
とにかく、私が困る。
一番の問題はタイミングだ。
浅葱くんはやたらと人の目を集めるし、何より女子から絶大な人気がある。
特にギャル達からの支持が圧倒的なので、彼女らから目をつけられることだけは避けたい。
残りちょっとの高校生活、受験もあるし茨の道は歩みたくない。
となると放課後がいいかな。浅葱くんの周りから人がいなくなるのを見計らって、ささっと交換してもらおう。
うん。それがいい。間違っても昼休みに突撃するなんてことは自殺行為――
「おい、“立花すみれ”いるか?」
一人決意を固めたところで、誰かが私の名を呼ぶ。
しんと静まりかえる、教室。
クラスメイトの視線が一斉に私に集中した。
こわっ!なに!?
恐る恐る教室のドアへ目をやれば、そこには今一番会いたくない人物が立っていた。