ヴィーナスパニック


浅葱くんか櫂くんかってなったら、そりゃ不良っぽい浅葱くんよりかは王子様な櫂くんってなるよね。

無難に櫂くんを選んだだけのこと。

そうして、私は櫂くんを好きだとさなちんに思われたまま今日に至る。


「諦めちゃダメだよ。今年こそ、告白!だよね。自信持って。すみれは可愛いんだから」

「う、うん……ありがとう」


お世辞でも可愛いだなんて、有り難きお言葉……。


「でも櫂くんって人を近づけないオーラあるからなぁ。まずはお友達って思ったんだけど、きっかけがないんだよね。共通の友達もいないし」


腕を組んでさなちんが考え込む。

ああ、また心が痛む……。

櫂くんと今まで話した事なんて、一度もない。
彼は特進クラスだから違う階にいるし、関わりなんて一つもないんだ。

それならば同じ委員会に入ればチャンスがあるとさなちんに背中を押されたものの、その座を狙って各クラスの女子間で戦争が起きたため櫂くんはそれ以来どの委員になることもなくなった。
そうして戦の火は鎮まった。凄まじい影響力である。

たまに彼とすれ違うくらいはあるけれど、それでも目が合うことすらない。
私の事なんて存在も認識されてないんだろうな……。

櫂くんを純粋にカッコいいとは思っても、好きっていう感情は沸かない。

そもそも、好きって何だろう。

私……誰かを好きになったことが、ない。

恋がどんなものなのか、わからない。

どんな感じなんだろう。どんな形をしてるの?

誰かを想って、激しい感情に突き動かされる……そんな経験をする日が私にも来るのかな。


っていうか、もう高三にもなるっていうのに彼氏もできたことないし――ヤバくない!?

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