仁瀬くんは壊れてる
 小栗くんがなにか言ったけど、周囲のざわめきの方が大きくて聞き逃した。

「こっち手伝って〜」
「はいはーい」

 呼ばれてチェシャ猫役の女の子を着飾りに行く、沙羅。

「あーあ。この舞台が終わったら、小糸井のことデートに誘おうと思ったのに」
「そうなんだ」
「リアクション薄っ……。もっとなんかないの」

 知ってるもん、小栗くんがいろんな子にそういうこと言ってるの。

「特別じゃない言葉に特別を返す必要ないよね」
「……愛想ないオンナ」
「ないよ」
「そんな小糸井も。彼氏の前では女の子になってるわけ?」

 ふと、巧くんと結ばれた日のことを思い出す。

 きっと人生でいちばんわたしが女の子らしくなれた瞬間だ。

「……っ、知らない」

 あんなわたし。
 巧くんにしか、見せられないよ。

「なにその顔」
「マッドハッター、だけど?」
「じゃなくて。……そんな表情するのか」
「?」

 小栗くんが、驚いている。

「そんな表情?」
「素顔だったら。完全、落ちてた」

 またそんなチャラいこと言って。

「そっか」
「喜べよ」
「喜ぶところどこにあるの」
「辛口女」 
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