My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
(ラグ! セリーン! ――エルネストさん!!)
私は心の中で泣き叫びながら白い建物の間を縦横無尽に走った。
ただ闇雲に、背後から迫る足音から逃げることだけを考えて。
だが、土地勘の無い私はすぐに行き詰ることになる。
目の前の高い壁にドンと手をついた。
「行き止まり!?」
戻ろうと壁を背にするが、そこで私は最悪な音を耳にする。
ガチャガチャという金属音。――兵士たちだ。
(そうだ、歌!)
私はお城を脱出したときのことを思い出す。
あの時も目の前には高い壁があった。
乗り越えるなら、あのとき歌ったあの歌しかない。
息を吸い込んで、でもすぐにまたその息を吐き出す。
――歌い終わったあと、さっきみたいにまた動けなくなったら……?
今は一人。動けなくなっても誰も助けてはくれない。
でも足音はもう間近に迫っていた。
私は頭を振って自分を落ち着かせる。
(飛べれば、上からラグを見つけることだってできる!)
意を決して再度口を開いた――そのとき、ガンっという大きな音が響き心臓が飛び上がった。
「ぐあっ!」
「な、なん……ぎゃああぁ!!」
「うわぁあ!」
すぐそこの角の向こうからそんな恐ろしい叫び声と、けたたましい金属音が続けざまに聞こえてきた。
(な、何!?)