偽婚
そう言った神藤さんは、ベッドの頭上の、私のネームプレートを差した。

『鑓水 杏奈』と書かれている。


長男同様、次男の嫁が事故に遭い、しかも実は籍を入れていなかったと知られたら、さすがにまずい。



「こんな時なのに、一緒にいてやれなくてごめんな」

「そんなのいいって。大丈夫だよ」

「夜には戻るよ。面会時間が終わるまでには間に合うようにするから」


寝てないのに、仕事に行き、しかもまた残業するつもりなのか。

ますます心配になる。



「私のことなんて気にしなくていいって。仕事が最優先なんでしょ? 終わったらそのまま帰って寝た方がいいよ。倒れちゃうよ?」

「俺が、したくてやってるだけだ。お前の方こそ、そんなこと気にせず寝てろ」


何でもないことみたいに言って、神藤さんは「じゃあな」と言葉を残して背を向ける。


気付けばキスのことなんてすっかりなかったことみたいになっているが、でもこの状況ではそれも仕方がないのかもしれないとも思う。

何だかなぁ、と、いう感じだけれど。

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