偽婚
神藤さんがいなくなってから、私はそのほとんどの時間、眠っていた。
気が抜けたのと、まだ体中が痛いのと、それから脳震盪の影響もあるらしい。
昼を過ぎた頃、コンコン、というノックの音で、目を覚ました。
「杏奈ちゃん」
病室に入ってきたのは、高峰さんだった。
驚いて、慌てて体を起こそうとしたが、うまく動けなかった。
「寝てていいよ。そのままでいいから。大丈夫?」
「大丈夫だけど、何か恥ずかしいからやだ」
私は、病院着で、しかもきっと寝癖もついているだろう。
高峰さんは「ははっ」と笑い、
「そんなこと考える余裕があるのは、元気な証拠だよ」
と、言った。
私は、ベッドのリクライニングのボタンを操作し、上半身だけを起こした。
体勢を変えるのもなかなか苦労したが、でも意外なことに、少し体を起こしている方が楽だった。
高峰さんは、横の丸椅子に腰を下ろす。
「今回は、杏奈ちゃんの事故対応できたんだけど」
「事故対応?」
「あぁ。これから警察の聴取もあるだろうし、相手の保険会社もくるだろうからな。そういうのを、俺が一手に引き受けるんだよ」
弁護士というのは、そんなことまでしてくれるのか。
「ごめんね、高峰さん。元カレのこととか、アパートのこととか、色々とお願いしてるのに、事故のことまでなんて」
「今回は、正式に神藤からの依頼だよ。だから杏奈ちゃんは、何も気にする必要はない」