偽婚
足を延ばしてもまだ広い大浴場は、私にはプールのようにさえ思えた。
薬湯や美肌の湯などがあって、あっちもこっちもと湯に漬かりながら、お風呂に入るだけのことがこんなに楽しいなんてと驚きだった。
手足がふやけるまで温泉を堪能して、部屋に戻ると、神藤さんはタブレット片手に目を閉じていた。
「……寝てんの?」
神藤さんの寝顔を見たのは初めてだった。
滅多にない経験が嬉しくて、そろりと傍まで近付き、その顔をまじまじと見る。
神藤さんって、寝てるとこんな顔なのか。
それにしても、イケメンは寝顔すら整ってるんだな。
なんて、どうでもいいことを思ってしまう私。
おもしろいからついでに写真でも撮ってやろうかと、テーブルに置いていた携帯を手繰り寄せようとした時、カタッと小さな物音がした。
「ん……」
あ、やばい、起こしたかも。
焦った瞬間、寝ぼけた神藤さんに腕を引かれる。
そのまま、唇が近付いてきた。
「美嘉……」