加納欄の受難 シリーズ1 シーズン1
 カジノ”M”に着いたからって、まだ店事態は始まってはいない。

 表看板には”PM5:00より通常営業”と書いてあった。



通常、営業。



やっぱりね・・・。



 大山先輩の事故があったために裏カジノは急遽中止だ。

 先程と同じように、裏口に周り、中へ入った。

「お邪魔しまぁす」

 あたしは、ズカズカと中に入った。

 大山先輩が倒れていた部屋には誰もいなかった。

 そのまま裏通路に出た。

 ただの真っ白い壁がしばらく続いているようだった。

 道なりに沿って歩いた。

 しばらく歩いても白い壁は続いた。

 思ったより、大きい建物なのかも、これならいろいろ隠し部屋ありそうだった。

 なぜか従業員にも会わなかった。

「欄」

 不意に名前を呼ばれた。

 動きを止め、振り向くことが出来なかった。

「欄」

 もう一度名前を呼ばれた。

 その声に聞き覚えがあった。

 恐る恐る、振り返った。

「し・・・はん・・・。ど・・・して・・・?」

 あたしは、目を疑った。

 あたしの前に立っている男性は、相変わらず長い髪を1本に結わえた昔と変わらない麟孔明師範だった。

 低音の声に聞き間違いはなかった。

「久しぶりですね」

 低姿勢振りな話し方も、昔と変わらなかった。

 師範が話しながやって来た。

「こ、来ないで下さい!」

 身体が強張りそうになる。

 あたしは、後ずさりをして、間合いをとる。

 体が壁にぶつかった。

 逃げ場はなかった。

 師範は近くまで来ていた。

「近寄らないで!」

「久しぶりに再開したのに、冷たいですねぇ。欄に逢いにきたんですよ」

「うそ!」

 眼の前に立った師範の両手が、あたしの頬にそっと触れる。

「触らないで下さいっ!」

 あたしは、反射的に師範の両手を払いどけようとした。

 が。

 師範は、あたしの指を自分の指に絡ませると、壁に押し付けた。

「痛い!放してっ!」

 師範は何も言わず、ただあたしを見つめた。

 あたしは、一瞬にらみ返したがすぐに目線を外してしまった。

「欄」

 師範が優しい声で名前を呼ぶ。

 あたしの頭の中で、消したい記憶がまざまざとよみがえりそうだった。




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