私の中におっさん(魔王)がいる。
* * *
ああああああああ。恥ずかしいっ。
なんつーやらかしだよぉおぉ!
「そもそも、あの完璧な風間さんが私を好きなわけないじゃんっ! バカじゃないの、ゆり!」
ぐすっと鼻を啜る。溜まった涙を目を瞑ってこぼして、力強く袖で拭った。
近くでラングルが心配そうに鼻を鳴らした。私は近寄って灰色のラングルを恐る恐るなでる。ラングルは嬉しそうに私の手のひらに顔を埋めた。
「本当に人懐っこいんだ」
ふふっと笑みがこぼれる。
私は収容小屋にいた。なんとなく、あのまま中央に戻ったら、誰かしらがいるんじゃないかと思って、おもいきり落ち込めるところを思い浮かべたらここに転移してた。
もしかしたらさっきアニキに連れてきてもらったからかも知れないけど。
ふと、アニキの顔が思い浮かんだ。たくましい背中、大きな手のひら、厚い胸板に包まれたならおもいきり泣けそう。でも、アニキにこんなことで迷惑をかけるわけにもいかないし。
「あ~あ! 恥ずかしすぎる……穴があったら入りたい。一生出てきたくない」
風間さんに勘違いしたってばれなかったことが救いだよ。
「私、こんなことで泣くなんて、風間さんのこと好きだったんだなぁ」
ぽつりとこぼして、ラングルのおでこに頬をくっつけるとひんやりして気持ちが良かった。
一目惚れだったのかも。だってあんなに美しい男の人きっとこの世界にだって、私のいた世界にだっていないよ。
アイドルや俳優に憧れるクラスの女子を今まで、理解出来ないなぁなんて見てたけど、やっと理解した気がする。
きっと大好きなアイドルの結婚話を聞いた女子はこんな感じよ。
ショックだったの。
自覚した途端にフラれた。そんな気分だった。
だって、風間さんの恋愛感情が、私には微塵もないということが判明したんだもん。あの言い方、絶対異性として意識してない。
でも速めに判明してよかった。
傷は負うのなら、浅いうちの方が良い。
「もしかして、毛利さんの告白も勘違いなんじゃない?」
自嘲して、ため息をこぼす。
本当にそれも勘違いだったら恥の上塗り過ぎる。
そもそも私、毛利さんのことどう思ってるんだろ?
襲われたことは、怖かったし……。あれ以上何もなかったぽいのは良かったし……。でも告白されたときは、悪い気はしなかったし……。
「っていうか、告白されたのなんて初めてだったし。それで舞い上がっただけなんじゃない?」
自問して頷く。
「……はあ」
深いため息をこぼした。手のひらの下で、もっとなでてくれよ~とラングルが揺れる。わしゃわしゃとなでながら、はっとした。
「そういえば私、間接的に雪村くんに告白されたってことなのかな?」
そうだとしたら、嬉しい気持ちはあるけど……。
「でも、それって多分、風間さんの勘違いだと思う」
私に一目惚れなんて、犬くらいしかしないでしょ。沢辺さんじゃあるまいし。
不意に庭を見ると、もう日が暮れ始めていた。
「そろそろ戻るか。――ありがとね。ラングル。元気でたよ」
私はもう一度ラングルを撫で回し、呪符を取り出した。