私の中におっさん(魔王)がいる。
第六章・異世界は休戦中でした。
 私は六畳間の和室に運ばれた。
 多分、私が最初に起きた時にいた部屋だと思う。襖の柄や、縁側から見える景色が同じだったから。
 アニキと雪村くんは、飯作るように言ってくるわと告げてどこかへ行ってしまった。
 障子は閉められてしまったし、わざわざ開けて景色を眺めるにも、風が少し冷たいので、そんな気になれず、ぼんやりと座って部屋を眺めていると、突然障子が開いた。

「失礼いたします」

 私は慌てて崩していた足を正す。
 お膳を前に正座していたのは、美しい髪の女性だった。年は三十歳くらい。彼女は立ち上がると、私を一瞥して微笑む。心がほわんとした。
 草原のように鮮やかな緑色の瞳と、透き通るような白い肌。整っていて高い鼻の下には、薔薇の蕾のような小さくて、血色の良い唇。
 そしてなにより、金糸のように美しく、長い髪の毛。――美人だ。

 私はぽかんと口を開けながら、女性を眺める。失礼だとは思ったけど、でも、こんな美人は風間さんと沢辺さん以来だよ。っていうか、毛利さん達以外に人いたんだ。
 彼女は、フレアスカートを揺らして入室した。

「初めまして、谷中様ですね?」
「あ、はい。そうです」
「私(わたくし)は花野井様に仕えております。月鵬(げっぽう)と申します。皆様のお食事は、私共で作っております。ご紹介のほど宜しいでしょうか?」
「え? あ、はい」

 何気なく返事を返すと、月鵬さんはどうぞと、短く言って人を招き入れた。

「失礼します」

 丁寧に挨拶をして入ってきたのは、くりっとした大きな瞳をした、黒髪の少年だった。瞳の色は濃い茶色。馴染みのある容姿に少しほっとする。日本人ってこういう目の色と紙の色の人多いから。
 彼は水色の着物を着ていたけど、肩部分と二の腕を繋ぐ布が少し開いていて、中に着ている長襦袢が見えていた。その部分は赤い太い糸で結ばれている。
 袴は、半ズボンのように膝上までしかなかった。
 十二歳かそこらに見える少年は、丁寧に頭を下げた。

「柳(りゅう)と申します。毛利様のところで働かせていただいております」

 柳くんは、ハキハキとした口調で言って、真面目そうな瞳を向けると、キビキビとした動きで部屋の奥へと詰めた。

 見ていたようなタイミングで、次に部屋へと入ってきたのは、私と同じくらいの年齢の少女だった。
 彼女はベージュのマントをはおっていた。首周りの布が多くて、口元が隠れているけど、多分可愛い子だと思う。マントの裾からふんわりとした形のキャロットスカートが覗いていた。
 髪はふんわりとしたボブで、薄い桃色だった。

 彼女は部屋に入るや否や、赤紫の瞳で私をギロリと睨んだ。
(えっ、何か悪いことした?)
 戸惑っていると彼女は私から目線を離した。
 
「三条家に仕えてます。結(ゆい)です」

 ぶっきらぼうに言って、勢い良く頭を下げた。そしてまた勢い良く顔を上げる。なんだか照れたような顔をしていた。
 結さんってただ単に、感情を表現するのが苦手なだけなのかも知れない。

 一番最後に入ってきたのは、中年の厳つい感じの男性だった。
 スキンヘッドで、恐持ての顔だ。彼は、ビシッとしたスーツを着ていた。

(怖い。ヤクザみたい)

 びびった私を一瞥して、彼は丁寧に頭を下げた。

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