冬の王子様の想い人
「違うわよ。ナナの正しい名前はナツミよ。知らなかったの?」

梨乃が返事をすると、雪華が驚きの表情を浮かべた。


「え……ナナはナツミなのか? ナナミじゃなくて!?」


なぜか興奮した様子で問い詰められる。どうやら本当に知らなかったようだ。
人の名前を間違えない彼にしては珍しい。


「う、うん。よく間違われるんだけどナツミなの」


この学園内でナツミと呼ぶ人はいないから、と付け加えると、綺麗な灰色の目が瞬いた。


「……マジか! ……うわ、なんで俺、こんな大事な事実に気づかなかったんだろ……カッコ悪すぎ……」

肩から手を離して自身の髪を困ったようにかき上げる。


「どうしたの?」
「なあ、ナナは幼稚園の頃、自分の名前を漢字で書けた? 漢字を知ってた?」

突然両肩をがっしり両手で掴まれ、真剣な声音で質問される。

「ええっと、漢字は知らなかったし、書けなかったかな……小さい頃は自分の名前を季節の夏のナツミだと勘違いしていたってお母さんが言ってたけど……なんで?」

戸惑いつつも記憶を呼び起こして返事をすると、大輪の花が綻ぶような満面の笑みを向けられた。彼の頬が紅潮している。


「ハハッ、ナナ、いや七海、最高だよ! 俺が馬鹿だった」

いきなり上機嫌になり相好を崩した真意がよくわからない。
頭の中にたくさんのクエスチョンマークが浮かぶ。


梨乃はなにかを考え込むような複雑な表情をしていた。
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