冬の王子様の想い人
「じゃあね、ナナちゃん」

鈴の音のように澄んだ声で言って、スカートの裾を翻して颯爽と階段を上っていく。



その姿に声も出せずにただ、その場で立ち尽くすしかできなかった。姿が見えなくなった途端、緊張の糸が切れてずるずるとその場に蹲った。


制服のスカートの裾が汚れようが気にならなかった。力が抜けて、ペタンと座り込んだ床の冷たさが足に伝わり、今になって身体が軽く震えてしまう。

そんな自分を大好きな人への気持ちごと、ギュッと抱きしめた。


「……雪華」


吐き出したのは大好きな人の名前。ここに居るはずのない、来るはずのない人の名前。

声を出すと、堪えきれなくなった涙がひと粒零れ落ちた。心が潰れそうに痛い。


大丈夫、傍にいるよって言って。
大好きだよって抱きしめて。


心の中で悲鳴のように叫ぶのは切ない願い。


離れたくない。傍にいたい。


こんなに大好きなのにやっぱり思い出の女の子には敵わないの? 
だとしたらこの想いはどうしたらいいの?
制御できない溢れそうな気持ちはいつか思い出に変わるの?


俯いた両目からポタポタと零れ落ちた涙が床に丸い染みを作る。襲ってくる寂寥感に心が負けそうになる。
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