冬の王子様の想い人
「七海!」


私の名前を呼ぶ声が階上から聞こえた。バタバタと大きな足音が響く。


……まさか。どうして? 
だって、ここにいるなんて誰にも言っていない。


声を発する前に、正面から一番会いたかった人に抱きすくめられていた。

雪華の温もりが驚く私を包み込んで、心を甘く震わせる。感じていた心細さが薄まっていく。


「……よかった、ここにいた……」
「雪華……なんで……」


呆然と呟くと、彼は跪いた状態で抱きしめる腕に力を込める。

「……七海が食堂に行ったまま戻ってこないって日村から言われたんだ。俺と一緒なのかって聞かれて捜してたんだ。七海、スマートフォン持って行ってなかっただろ。焦ったよ」

鼓動が速い音を立てている。きっと急いで走って捜しまわってくれたんだろう。

改めてその優しさに胸を打たれ、心配をかけた申し訳なさでいっぱいになる。


「……ごめんね、雪華……あの」
「食堂に行っていただけじゃないんだろ? なにがあった? 誰かになにか言われた? ……葉山か?」
 
なにもかもお見通しな恋人には嘘がつけそうにない。抱きしめていた腕を離して、私の両頬を大きな手で包み込み、目を覗き込まれた。綺麗な灰色の目に私が映りこむ。
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