冬の王子様の想い人
「え……?」
「俺にとって大事なのは七海だけだからそれでいいんだよ」

至極当たり前のように放たれた台詞に面喰らうと同時にカッと身体に熱が帯びる。


「ど、どういう意味?」
「その時になったらきちんと話すからもう少しだけ待ってて」

ひとりで納得して曖昧にしか返事をしてくれない。それ以上教えてくれる気はなさそうだ。いつも通りの落ち着いた態度は冗談を言っているようにも見えない。



「……七海を追いつめるなんて最悪だな」

先程までの甘い声は別人か、と思うほど低い凄んだ声で呟く。


「葉山に話をして、付け入る隙はないとしっかり伝える。何回か忠告したんだけどな、七海を泣かせるなんて本気で許せない」

眉間に皺を寄せた彼の纏う空気が一気に冷たいものに変化する。端正な容貌に険しさが滲む。


「あ、あのっ、酷い言い方はしないでね? なにかされたわけじゃないんだから」

思わず葉山さんが心配になって見上げると、虚をつかれたように眉尻を下げて見つめ返される。


「泣かされたのに?」
「……それとこれとは別だよ」


だって彼女の気持ちがわかるから。

そう言ったら雪華は否定するだろうか。彼女は雪華が好きなだけ、ただそれだけだ。

自分は大好きな人の求める思い出の少女なのに、彼は自分のものにならないばかりか、見てくれさえしない。その悲しさ、辛さ、切なさは同じ人を好きになった身として十分にわかる。


だからこそ酷い言い方はしてほしくない。

綺麗事かもしれないけれど、葉山さんの立場は私の立場でもある。なにかが少しでも違っていたら私は恋人にはなれなかったのだから。
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