冬の王子様の想い人
左手首を骨ばった指に掴まれる。

振り返ると、真っ黒なスマートフォンを顎と耳で軽く挟んだ姿が目に入った。


不安定な態勢で強引に引き寄せられた私の身体が前のめりに傾ぐ。

見惚れるような柔らかい表情を浮かべた王子様は腰に長い腕をまわし、さっきよりも強い力でグッと胸元に引き寄せた。


伝わる体温に落ち着かなくなる。

理解が追いつかず呆然とする私を一瞥し、スマートフォンを片手で持ち直す。


「……いや、子猫の逃亡を阻止しただけ」


クックッと楽し気に低い声を漏らす。先ほどより幾分機嫌が良さそうなのは気のせいだろうか。


冗談じゃないわ、誰が子猫よ。 


衝動的に王子様の足の甲を思い切り踏みつけた。

「痛っ!」

驚いた彼が怯んだ隙に腕から脱出し、今度は油断せずに逃亡する。

「ぎ、議事録は黒板を写してください!」

叫んで、階段を駆け降りた。

「おいっ!」

背中から王子様の声が追いかけてくるけれど、無視をする。

お伽話のお姫様だってガラスの靴を置いて逃亡しているのだから絶対に待ったりしない。

そのままの勢いで自身の教室まで走りきり、制バッグをひっつかんで学校から脱出した。


落ち着かない胸の鼓動と冷めやらない頬の熱は全力疾走したせいだと信じたい。
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