溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「柚」
「ん?」
「私、彼氏ができたの」
「えっ!」
モソモソとレタスを咀嚼している爽子の頬がほんのり赤く染まっている。
「そうなんだ、おめでとう。相手はどんな人?」
「大学のときの同期よ。学部はちがったけど、サークルが一緒だったの」
へえ、こりゃ多くの人が泣くな。
なんたって爽子は入職当時からモテてモテて大変だった。医局のドクターはもちろん、病院専属のMRや作業療法士や理学療法士、言語聴覚士、さらには院内に出入りしている清掃スタッフの男性に患者さんの家族まで。
多岐に渡ってたくさんの男性からアプローチされていたのを知っている。
けれど爽子は、どれだけ地位と名誉がある人にアプローチされても誰にもなびかず「仕事が命なの。それ以上に大事なものなんてこの世にはないわ」そう言って男性たちを一蹴し、泣かせてきた。
命とまで宣言している通り、爽子はとても仕事ができて、今では立派に救急外来のリーダー勤務もこなしているらしい。
仕事ができるカッコいい女性。後輩たちからの信頼は厚く、上司や同期からも一目置かれる頼もしい存在。
そんな爽子に恋人ができたなんて、とても驚いあたけれど、でもそれ以上に自分のことのようにすごく嬉しい。
それに今まで誰にもなびかなかった彼女が、どんな経緯でその人に惹かれてお付き合いするまでに至ったのか、これは是が非でも聞き出さなければ気が済まない。
「おっと、もう時間だ。詳しい話はまた今度ね。近いうちにまた連絡する」
腕時計を確認した爽子がトレイを持って立ち上がる。
「お疲れ様、頑張ってね」
彼女の背中に激励を送ると、爽子は片手を上げてそれをひらひらと振った。