溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
不安に押しつぶされそうな中、オフィスビルの前を行ったり来たりしている私は、誰がどう見ても不審者にしか見えなかったに違いない。
そこへ間の悪いことに優が現れた。というよりも、出先から戻って来たらしく、オフィスへと帰ってきた彼と出くわしてしまった。
そのときの優の驚きようといったら、今でも忘れられない。まるで変なものでも見るかのように、私を見てポカンとしていた。
けれど、すぐに思い直したのか呆れたように言い放った。
『もっと自分の立場をわきまえろよ。会社まで来るとか、信じられないな』
そんなふうに言われてわけがわからないという表情を浮かべると、苛立ちを隠さずに優が厳しい言葉を浴びせた。
『賢い女だと思ってたのに、どうやら俺の見当違いだったみたいだな』
見たこともないような冷ややかな視線を向けられて、私の心は凍りついた。
『遊ぶ女は慎重に選べって言われてたのに、ハズレくじ引いちまったよ。そろそろ飽きてきた頃だったし、ちょうどいい機会だったのかもな』
言ってる意味がわからない。優の口からこんな言葉が出てくることも信じられなかった。
遊ぶ、女……?
それは、私のこと?
『この俺が一般人を本気で相手にするわけがないだろう? 勘違いも甚だしい』
こんな暴言を吐く彼を私は知らない。この人は本当にあの優なのだろうか。
目の前にいる人物は私の知ってる彼とはまるで別人で、すぐには理解が追いつかない。
『そこのところをわかっていると思ってたけど、きみを選んだのが間違いだったよ。夢を見させてやったんだから、もういいだろう?』
反論する隙など与えられず、優は私を一瞥すると本社ビルの中へと消えて行った。