溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜

少しでも気を抜くと優のことが頭に浮かんでくる。それを必死に振り払い、今では思い出すことも少なくなったけれど、そのときのトラウマは、今も私の心に深い傷跡を残している。

当時は食事が喉を通らなくなって、みるみるうちにやせ細ってしまった。夜も眠れなくなり、顔色は常に土色。健康状態は悪化の一途をたどるばかりで、そんな私を爽子はとても心配していた。

立ち直ったのはちょうど一年前くらい。特になにかあったというわけではない。時間の経過とともに、彼に対する感情が薄れていった。

それからは恋愛なんてする気になれず、仕事しかしてこなかった私には、この数年で色めき立った話などひとつもない。

もうあんなふうに傷つきたくない。

ボロボロになって、惨めな姿をさらすのは懲り懲りだ。だったらもう恋愛なんてしなくてもいい。

今はひとりでだって生きていける世の中なのだから、そんなふうに考えるようになっていた。

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