溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
終業時間を二時間も超えて病院の裏口から外に出ると、冷たい夜風が頬を撫でた。
ヒールを履いている足が棒のようになっている。終業間際にオペ後の患者さんの容態が急変して、さっきまで病棟内を走り回っていたせいだ。
いつもは定時で帰れるけれど、予測不能なことが起こるのが医療の現場。たまにはこんな日もあって当然。
患者さんはなんとか安定し、鎮静剤の効果で今は眠っている。おそらくもう心配はないだろう。
気が抜けてホッとした瞬間、ドッと疲れが出てしまった。それ以上に今日は予測外の出来事が多すぎたのだ。いつもよりもずっと疲れを感じてしまっている。
ヒールでの歩きづらさを感じながら、棒になった足で駅までの道のりを歩く。
こんな日は早く家に帰って温かいお湯に浸かり、湯上がりにひとりでパーッとビールでも飲んでスッキリしたいところだ。
するとそれを見計らったかのように、目の前の国道に黒塗りのセダン車が横付けされた。
ピカピカに磨き上げられ洗練された光沢を放つその車は、ひと目見ただけで高級車だということがわかる。
ハザードランプが灯ったかと思うと、助手席側のパワーウィンドウが音もなく静かに開いた。
「日下部さん、乗って」
シートベルトを外して身を乗り出し、窓から顔を覗かせたのは篠宮先生だった。ご丁寧に中からドアまで開けてくれて、私を中へと促す。
「ど、どうして」
「迎えに行くって、言っただろう?」