溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「お疲れ様です、失礼します」
乗り込んだ車内は黒で統一されており、レザーのシートに体がズシリと沈みこんだ。
恐る恐る背もたれに背中を預けて、膝の上で抱えたランチバッグを両手でギュッと抱えこむ。
「シートベルト締めてね」
「……はい」
言われるがままシートベルトを締めると、車は音もなくゆっくりと国道を走り出した。
車内にはショパンだろうか、ピアノ伴奏の心地いい音楽が流れている。スピーカーの質がいいのか、素人の私が聞いても音質がちがうのがわかる。
走行音もほぼなくて、乗り心地は最高。今までに乗ったどんな車よりも高級感が溢れている。
やっぱり……すごいな。
「あ」
数分後、信号待ちで車が止まると篠宮先生がゆっくりと私の方を見る。
「よかったら、これ。腹の足しにでも」
ドリンクホルダーからスッと引き抜かれたホットミルクティー。しかも私の好きな銘柄のものだ。甘さが控えめで、それでいてしっかりとコクがあって美味しいの。
まだ開封されていないところを見ると、私のために用意してくれたのだろうか。ということは、篠宮先生の中で、私が車に乗ることは想定内の出来事だった?
まんまと狙い通りに行動した自分が恥ずかしい。
それでも飲み物に罪はないのだから。
「ありがとう、ございます」
そう思ってお礼を告げて受け取る。
簡単に車に乗って、軽い女だと思われただろうか。
ううん、どう思われたって構わない。断るために今日はきたのだから。