溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜

二十分ほど車を走らせると都会の景色から一転して、緩やかなカーブが続く平坦な海沿いの道へと差し掛かった。

「わぁ……」

海だ。

暗くてなにも見えないけれど、だだっ広い空間が奥へ奥へとどこまでも続いていた。

片側一車線の道路からの対向車もグンと減って、煩わしい都会から抜け出したような開放感に包まれる。

「真っ暗でなにも見えないだろう?」

ぼんやりと窓の外を見つめていると、隣でクスッと笑う声がした。

「今度は夕方に来よう。ここからの夕陽は最高なんだ。車を停めてゆったりできる絶景ポイントがあるから、そこへ行こう」

それは私に言っているのだろうか。そうやって誰にでも軽口を叩いているの?

「真っ暗でいい。なにも見えないのがいいんです」

だってもう篠宮先生とこんなふうに会うことは二度とない。それなのに簡単なことは口にできない。あなたとは今後一切会う気はないという意味合いも含んでそう返した。

「ほう、それはまた珍しい意見だな。覚えておくよ」

「いえ、結構です」

「つれないなぁ、きみは。どうしたら喜んでくれるんだ」

「なにもして下さらなくて大丈夫です」

いえ、むしろなにもしないで下さい。私は平穏に暮らしたいんです。

嫌味が通じていないどころか、彼は満足そうに笑っている。掴めない人だなとつくづく感じる。

「あの、篠宮先生」

意を決して口を開いた。

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