溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜

密着している体は思った以上に筋肉質で、シャンプーの匂いだろうか、髪の毛からスッキリとした柑橘系の香りがする。

心臓がありえないほど早鐘を打ち、顔だけではなく全身がじんわりと熱くなっていくのを感じて、わたしはとうとう、うつむいた。

できることなら、過去に戻って車に乗る前の私に言ってやりたい。その選択は間違っていると。あなたはそのまま家に帰って、ひとりでビールを飲むのが合っていると。

ソファの上にゆっくり体が下ろされると、ようやく地に足が着いたような感覚がした。

「なにも気にすることはない。いつもの日下部さんでいればいいんだ」

「は、はぁ……」

そうは言われても気にしてしまうのが私の性格。

「せめて、もう少し一般的なお店にしてくれたら……」

「個室となるとここしか思いつかなかったんだ。ここはよく家族と訪れていて、子どもの頃から贔屓にしていたから」

「そ、そうですか」

子どもの頃からこんなお店に?

「だからリラックスして寛いでくれ」

なぜそこに繋がるのかはわからなかったけれど、言い返す気力など残されていない。

早く本題に入らなければ。

そう思って決意を固めたところで、篠宮先生がジャケットのポケットに入れていた個人用のスマホを取り出す。

「すまない」

そう言って部屋を出て行く姿が、昔の優の姿と重なる。彼もよく私といる時に電話がかかってきて席を立つことが多かった。

今思うときっとそれは本命が相手だったのかもしれない。



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