溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜

篠宮先生に本命がいたところで私には関係ないわ。

小さく頭を振って、肩にかけたキルティングバッグの中からコンパクトミラーを取り出す。

仕事帰りのくたびれた顔には、疲れの色が浮かんでいる。忙しなく動き回っていたせいでメイクは崩れ、お団子にしている髪はその原型を留めていない。

さっと後ろ髪をほどくと手ぐしでとかし、せめてもの身だしなみを整える。自分の顔がほんのり赤いのは気のせいではない。

いきなりお姫様抱っこされたら、誰だってこうなるよ。

髪は胸下までの毛先だけゆるいカールがかったヘアスタイル。

休みの日は下ろしていることがほとんどだけど、仕事の時はお団子でひとつにまとめている。

大きめの目にちょこんと乗った鼻、薄い唇、爽子に言わせると愛嬌があって「かわいい」そうなのだが、幼さの残るこの童顔が唯一のコンプレックスだ。

初対面の人に年齢を伝えると、いつも驚かれてしまう。「大学生ぐらいかと思った」と言われた時は、さすがの私もショックだった。

童顔であることは自覚してるけど、それほど幼く見えるというのか。

大人の魅力があふれる女性になりたいのに、努力も虚しく「かわいい」と言われることが多かった人生。

低くも高くもない身長はヒールを履いてごまかしながら、必死に背伸びをしてきた。

それなのにこの状況に冷静に対処できなくなっている私がいる。

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