鬼課長の魔法の義足。(11/24修正完結済み)

そして次に走ったのは、ダークホースの永井さんだった。
予選大会で負けたことが悔しかったのか
速さに切れが増していた。

挫折が彼をまた新しい信念を
生み出したのかもしれない。こちらも1位で予選追加。
この3人が決勝で当たるのかしら?

もし当たったら、きっと今以上に
凄い試合が見えるような気がした。
しかしそうは、いかなかった。
パラリンピックには、魔物が住んでいたからだ。

それは……次の日。準決勝で起きることになる。
なんと、準決勝にロンさんと永井さんが
当たってしまった。
どちらが負けたら決勝に行けなくなってしまう。
まさに決勝かけての戦いだろう。

日本選手として、またリベンジとして
永井さんには、頑張ってほしい。
ダークホースとしての腕も上がっていた。
しかし課長の最大のライバルとして
課長と競走してほしいと思うのは、ロンさんだった。
彼もまたそれを楽しみにしている。

どちらも応援しているし頑張ってほしいと
思うのだが、一体どちらを応援したらいいのだろうか?
お互いに負けられないから、なおさらだ。
悩む私に違い課長は、どちらを応援するのかしら?
やはり最大のライバルのロンさん?

不安に思いながら2人を見守った。
スタートラインに立つ2人。
周りもいつもと違う緊張が伝わってきたのか
黙って見ていた。

そして合図の号砲と共に走り出した。
速い……お互いに一歩も譲らない。
他の選手達も速いし必死に前に出ようとするが
永井さんとロンさんは、それを阻止する。
譲る気すら感じられない。

50メートルになった時に先に先頭を切ったのは、
永井さんだった。
やはりダークホースと言われているだけあって
若さと勢いを忘れていない。
課長とのリベンジに燃えているのだろう。
再度下克上を狙って向かってくる。

「凄い……永井さん」

しかし、そう思ったのは、一瞬のことだった。
次の瞬間には、ロンさんが異常なまでの
速さで追い上げてきたのだ。

息をするのを忘れるぐらいのスピード感。
競技用の義足は、まるで魔法の足のように
地面を蹴り上げた。ひたすら前に進んで行く。
そして永井さんを抜いた。

『義足の世界絶対王者』
そして『義足の貴公子』の異名を欲しいままに
操るロンさんの走り方だった。

永井さんも負けておらず必死にロンさんに
追い付こうとしたが最後まで抜き返せなかった。
結果は、圧倒的な差でロンさんが1位。
永井さんは、惜しくも2位になってしまった。
周りは、大きな拍手とたくさんの声援が飛び交った。
紛れもなく素晴らしい競走だった。そして、何より
ロンさんの実力を見せつけられた。

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