鬼課長の魔法の義足。(11/24修正完結済み)

私は、心配そうに春子さんと源さんを見ると
申し訳なそうに苦笑いする源さんに春子さんは、
泣きながら強く抱き締めていた。悔しさってより
一生懸命走った源さんへの感謝と労いだろう。
2人は、お互い見つめ合うと笑顔を見せていた。

お互いの愛は、こんなことで揺らぐことはない。
そう言っているように見えた。素敵な光景だ。
あんなに速くて『天才レーサー』と言われている
源さんでも敗れるなんて……改めて
世界大会の厳しさを知ることになった。
実力があっても必ず勝てるとは限らない。

運や相手によっていくらでも状況が変わるのだ。
今回だって……そうだ。
不安になりながら見ていると夏美さんが隣に来た。

「皆……真剣勝負なんですから仕方がないことです。
私達は、ただ見守ることしか出来ないけど
信じてあげて下さい」

そう言ってくれた。
彼女ならではの励まし方なのだろう。
切なそうな表情をする夏美さん。
自分にも言い聞かしているのかもしれない。 

だって……次は。松岡さんと加藤さんペアを率いる
視覚障害の800メートル・決勝だから。
世界からの視覚障害を持つ実力者達が集まる。
そこで1番目立つのは、やはり松岡さん達だ。

この決勝で金メダルを取れたら
松岡さんは、夏美さんに告白をすると言っていた。
彼にとったら最大の決心だろう。
目が見えないからって迷っていた松岡さんとは違う。
夏美さんのためにも頑張ってほしい。

松岡さんとガイドランナーの加藤さんが
スタートラインに立った。
ギュッと加藤さんの持っているバンドを握り締める。
サングラスをかけていて表情が分からないけど
今までにない緊張感だろう。 
これで決まるのだから……。

そして声と共に合図の号砲が鳴った。
松岡さんと加藤さんは、息を合わせて走り出した。
他の選手と同様に速さを調節しながら
3位ぐらいになっていた。
800メートルもあるのだ。慌てるのは禁物。
まずは、ペースを掴まなくてはならない。

カーブになるとガイドランナーの指示に従い曲がって行く。
ペースは、まだ乱れていない。
加藤さんも松岡さんのためにも真剣だ。
松岡さんの前には、大柄の選手とガイドランナーの人が
走っていた。その先には、もう1組の選手。

「あの先頭に走っている人。
前回の大会で松岡さんと争った選手です。
2位になりましたが、きっとリベンジを狙っているはずです」

夏美さんは、不安そうな表情で説明してくれた。
えっ?だとすると銀メダリスト!?
負けた選手は、次のリベンジのために
意識をしてくるだろう。他の選手もそうだ。
そうなれば本当の戦いは、オープンレーンからだ。
もう少し……。

1周目第2コーナーを抜ける。
そしてオープンレーンになった。
その際に合図の鐘が大きく鳴った。
選手とガイドランナーは、待ってましたと
スピードを上げて行く。松岡さんペアだけではなく
前の選手達は、争うようにさらに出ようとしてきた。

「頑張って~松岡さん、加藤さん!!」

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