【完】ファムファタールの憂鬱



ぼわん


いつものように、白い煙が周りに広がっていく。
私は、憂鬱になる重い気持ちをどうにかしたくて、瞳を閉じたまま…。


「静紅ちゃん」

「や…」

変わってしまった姿を見られたくなくて、私は身を捩る。
けれど、次の瞬間…思わず瞳を開いた。
だって……。

「静紅…」


と、切なげにじんくんが私の名前を呼んだから…。


「………っ!」

「猫になってない…ね…」


ほんの少し見つめ合ってから、私はじんくんの胸にダイブする。

「わっ」

「じーんくんっ!好き!」

「ははっ…俺も、や……俺は、大好き」

「むぅ…じゃあ、私は大、大、大好き!」

「なーんで張り合うかな……でも、良かった。俺の運命の人は静紅ちゃんだったんだー…」


胸の中に私を閉じ込めたまま、じんくんは優しく囁いた。
それがどういう意味なのか?と聞こうと顔を上げると…じんくんは楽しそうにぱちんっと一つウィンクを寄越す。

「静紅ちゃんは、ファムファタールって知ってる?」

「ふぁ…む?」

「うん。ファムファタール。意味はね…"運命の女(ヒト)"ってことで…赤い糸で深く結ばれた女の子のことを言うって昔、親父に聞いたことがあってさ…」

そう話すじんくんの瞳はとても生き生きとしていて、キラキラと輝いてる。

「好きな子が困っていたら、その子を絶対に傷付けるな。絶対に力になれって、もう耳にタコが出来るくらい言われてきて…だから、初めて静紅ちゃんに会った時…心のどこかで守らなきゃって思っちゃってさ…」


きゅうっ

頭を引き寄せられると、その距離はぐんっと縮まって…きゅんきゅんと胸が騒がしい。


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