願い婚~幸せであるように~
「あの、ベッドですが……。部長の希望はありますか?」

「和花ちゃんさ、部長ともう呼ばないでもらえる?」

「えっ? あ、そうですよね。結婚するのに、部長ではおかしいですものね。えっと……幸樹さんでいいですか?」

「出来たら昔のように呼んでほしいけど、さすがにくんと呼べないよな……」


昔のように?

どんなふうに呼んでいたのかと思ったら、ふと『こうくんのおよめさん』が脳裏に浮かんだ。

「こうくん……」とつい呟いてしまって、口を押さえるが、部長改め幸樹さんの耳に届いていた。


「懐かしいね。こうくんと呼んでいたのは、和花ちゃんだけだったから特別な感じがあって、嬉しかったんだよね。じゃあ、くんをなくしてみる?」

「くんをなくす? こう……ですか?」

「そうそう」

「ええっ! だめです! 無理です!」


とんでもない要求に両手をブンブン振ったが、心を落ち着かせようと烏龍茶を口に入れる。幸樹さんは食べる手を止めて、じっと私を見ていた。


「なんで無理というの? 俺が呼んでほしいと思ってるのに」

「いきなり呼び捨てはハードルが高すぎて、無理です。幸樹さんと呼ばせてください。お願いします」
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