願い婚~幸せであるように~
後部端の空いている席に社長が座ると、森村さんは小さく咳払いをして、姿勢を正した。続きを話し始めると、幸樹さんがそっと動いて社長のもとに行く。

私はそれを横目で見るが、さすがにずっと後ろを見ていられなくて、前を向いたから何を話しているのかは分からなかった。

幸樹さんはすぐに戻って、チラッとこちらを見た。つい彼の動きを目で追っていた私はドキッと心臓を揺らす。見ていたのがバレたようだ。

いけない、集中しないと! それよりも課長はまだかな?

川中さんも同じ思いだったらしく「ちょっと課長の様子を見てくる。すぐ戻るから」と出ていく。

ひとり残された私は不安しかないが、加藤さんがこっそりとこちらに来てくれた。森村さんの説明が終わり、最初にプレゼンする会社が準備しているところだった。


「なにかありました?」

「うちの中野のお腹の具合が良くないようで、今川中が様子を見に行っています。川中はすぐ戻るかと……あ、戻ってきました」


戻ってきた川中さんに様子を聞くと、プレゼンをするのは無理らしいとの返事が返ってくる。


「和花、どうした?」

「あ、こう……茅島部長」


幸樹さんから下の名前で呼ばれて、つい私までもが下の名前で返そうとしてしまい、慌てて言い直した。
< 91 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop