ママの手料理
だから、此処でタピオカを飲む時は、決まってあの日タピオカをを飲ませてあげられなかった彼の事を思い出してしまって泣いていた。


今、初めて彼の事を思い出さずにタピオカが飲めたのに。


だから、せきを切ったように頬を流れる私の涙に気付いた伊織は、


「あーごめんって泣かないで泣かないで…分かった、仁がウザいからでしょ?じゃこっちに移動しよ、ほらほらおいで!まさか泣いちゃうとは思わなくて、本当にごめんって…」


綺麗に仁さんに全ての責任を押し付けながら、座る場所をカウンター席からテーブル席に移動させた。


「後でタピオカ鼻に突っ込んであげるから覚悟してね伊織」


後ろからは、まるで怖くない脅しをする仁さんの声が聞こえる。


思わず、震える手でカップを持っていた私の頬が緩んだ。


「……ふふ、笑った」


隣に座った伊織が私の手からカップを取ってテーブルに置き、そのまま私の頭を優しく撫でた。


肩までの髪を下でツインテールに結ぶのがいつもの私の髪型だけれど、今日は外があまりにも寒過ぎて下ろしている。


「紫苑ちゃんは笑った顔が1番似合うよ」


(……もっと撫でて、)


透き通る声に温もりを求めて。


頬に新たに線を描きながら、私はそっと目を閉じた。
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