ママの手料理
｢だから、多分…いや絶対、紫苑さんのご家族はどちらも、自分達が殺されようとも紫苑さんと一緒に暮らせて幸せだったはずです。…僕らはただ、紫苑さんと紫苑さんのご家族がもっと幸せになれるように少しだけお手伝いをするだけですから｣


｢ぁ、……｣


黙って何も言わずに聞いていた私の目から、1粒の雨が膝に落ちた。


(……そうだよね、幸せ、だったんだよねっ、……)


自分の顔面が震えていくのを感じて、私は堪らずに下を向いた。


大雨が降る中、私が辛うじて見ることができたのは、膝の上で震えている固く握られた私の拳。


そんな私に気づいた彼は、すみません、泣かせるつもりはありませんでした…、と、小さな声を出した。


ゆっくりと航海の姿が大きくなって視界に入ったかと思うと、彼の大きな骨ばった手が私の拳を覆っていく。


驚いて顔を上げた私に、彼は目線を合わせるように膝立ちになって言葉を紡いだ。


｢そうやってご家族の幸せを願える紫苑さんが、僕は心底羨ましいです。…大丈夫です、絶対に紫苑さんのご家族は報われますよ｣


いつもは静かで口を開いたら変な事やたまに恐ろしい事しか言わない彼が、ぎこちない笑顔で、優しい声で私に語り掛けてくる。


凄く感動的なシーンのはずなのに、その台詞と航海のサングラスがどうしても似ても似つかなくて、私は思わず頷きながら笑みを零してしまった。
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