ママの手料理
そんな私を見て、彼は白い歯を見せて左右非対称に口角を上げて私の手をぎゅっと握り締めたかと思うと、


「じゃあ、僕はそろそろ行きますね。伊織さんと銀河さんの調査ももう少しで終わりそうなので、話し合いが始まりそうだったら呼びに来ます」


ゆっくりと立ち上がり、私に軽く一礼をして去っていった。



「………」


航海が居なくなった部屋はがらんとしていて、階下から微かに人の声が聞こえるだけだった。


「そっか、」


静寂の中、私は小声で呟いてみる。


「私のせいで皆幸せになれなかったと思ってたけど…幸せ、だったんだよね…っ、」


この家に来て何度目か分からない涙が、新たに私の目から流れ落ちる。


それからしばらく、航海の返答が嬉しかったのと家族ともっと一緒にいれなかったのが辛くて、私がどれだけ泣いても泣いても涙腺が乾くことはなかった。




「…ぶえっくしょーい!…ひーっ、寒ぃ寒ぃ」


あれから少し経ち、笑美さんに呼ばれた私は階下に降りていった。


どうやらお昼の時間はとっくに過ぎていたみたいで、既にテーブルに座った皆は仁さんと伊織お手製のタピオカとワッフル、そして湊さんが持ってきたマカロンをおやつとしてほおばっていた。
< 210 / 367 >

この作品をシェア

pagetop