ママの手料理
いやいや、俺の部屋の方が何倍も汚いよ!、と笑いながら私の部屋のドアを閉めたパジャマ姿の彼は、すたすたと歩いてきて床にあぐらをかいて座った。


「急にどうしたの?」


肩までの自分の髪を手でとかしながらそう尋ねると、彼は、


「いやあ、………」


と、自分からこの部屋に来たくせに目も合わせずに微かに笑った。


彼が部屋のドアを閉めたから、もう仁さんの声もあの大音量の曲もほぼ聞こえてこない。


外界からシャットダウンされたこの部屋で、大也は私から目を逸らせたまま自身の濡れた髪をぐしゃぐしゃと掻きむしった。


「…どうしたの?」


その大也の様子は、もちろんいつもの彼ではなくて。


例えるなら今の彼は、いつだったか彼が夜遅くになっても帰ってこなくて、私が探しに行った時に見つけた、悩んで落ち込んで泣いていた弱さがむき出しだったあの日の大也のようで。


「大也……、」


だから、何となくだけれど彼の言った『相談』の意味を理解した私は、そっと彼の肩に手を置いた。


彼の肩がびくんと震えて、そのまま大也は固く固く下唇を噛み締めた。


血が出るんじゃないかと心配になりそうなくらい長い間、俯きながら下唇を噛んでいた彼は、ゆっくりと息を吐き出した。
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