ママの手料理
いかにも琥珀が言いそうなことを想像して口に出しながら、目頭が熱くなる。


「俺、琥珀が嫌なら、明日OASISに攻めた後に家出てくから。そしたら俺らは家族じゃなくなるし、琥珀も清々するでしょ?こんな気持ち悪くて同性が好きな奴のことなんて、どう考えても琥珀が人として好きになろうなんて思わないもんね」


へへっと笑ってみせたけれど、上手く笑えただろうか。


出て行くと言ったって、もちろん行くあてはない。


大好きで今すぐ抱き締めたい相手に向かって自分を否定するような事ばかり述べて、何だか胸の奥の奥が痛くなってきた。


(っ、……)


琥珀の表情なんてもう分からない。


耐えられなくなって、俺の目からゆっくりと雨が降ってきた。



(…どうしよ、めっちゃ恥ずかしいし辛いんだけど…何この状況、…)


自分で作りあげた状況のくせに、もう心の臓が針で…いやナイフで刺されたように鋭く痛む。


その痛みを無くしたくて、正常な性的指向を持って生まれることが出来なかった自分が憎くて恨めしくて、俺は思わず俯いて握り拳を作った。


爪が掌に勢い良く食い込んでいるのが見えるけれど、その痛みすら感じることが出来なくて。



震える唇を噛み締め、最悪の失恋をした俺が鼻をすすったその時。


「…何ふざけた事言ってんだよお前、俺に偏見持つのは百年早いんだよ馬鹿」
< 238 / 367 >

この作品をシェア

pagetop