この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「……中絶して欲しくはない。……だが、辛そうな貴女を見ていると、私も辛くなる。逃げたいのなら、逃げ道を用意したいと思う」


 ローデリヒさんは片手で自身の顔を覆う。


「どうしていいか分からないんだ……。どの選択が正解なのか分からない。……王太子としてはアーベルだけでは、キルシュライト王族の直系に何かあった時に心もとない。その理由で産んでもらうのが正しいのだろう。アーベルの時は最大限サポートした。産んでもらうのが当たり前だと思っていたから。しかし、今回は違う。貴女は記憶が混乱していて、跡継ぎはもう既にいる」


 骨ばった指の隙間から、穏やかな海色の瞳が揺らいでいるのが見えた。


「…………本音を言うと、子供に会いたい。会って、独り立ちするまでしっかり面倒を見たい。……すまない、私が産むわけではないのに」


 その言葉に私はホッと一息ついた。ずっと胸に渦巻いていた漠然とした不安の一つが、解決したみたいな。

 産まなければいけないという、一方的に確定事項のように押し付けられていたように感じていた事が、実はそうではなかったんだな、と。
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