この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 原因は分かってる。スっと目を細めたローデリヒさんが、地を這うような低い声を出したからだった。


「ルーカス、という名前をどこで知った?」

「……えっと、アリサが結婚当初から付けていた日記の中で出てきてました」


 明らかに不機嫌になったローデリヒさんに、何か悪いことでも言ったのだろうか?と内心首を捻る。


「日記?」

「そうです。……あ、そういえばお屋敷から回収してくるの忘れた」

「後で持ってこさせよう。……日記の中でルーカスという男についてどう書かれていた?……その、思慕の念がまだあるとか……?」


 思慕の念?好きってこと?
 なんだ意外とローデリヒさんも、そういった恋バナについて気になるのか。本当に意外だなあ。王太子様が俗っぽい。

 ローデリヒさんまだ十九歳らしいしね。そりゃ色々気になるお年頃だよね。
 でも残念ながら、その期待には答えられないかな。


「いえ、ルーカス殿下と婚約破棄して密かに喜んだ……と。それだけしか書いてなかったです」


 その後一ヶ月分読んだけど、ルーカスという名前は全く出てこなかった。
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