この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 そして、ルーカスって人との婚約の経緯を知って、私は疑問に思ったのだ。


「……ローデリヒさんは私の能力が貴重だから、私と結婚したんですか?」

「いや、違う。貴女の能力を知ったのは結婚してからだ。……だが、皮肉なものだが、貴女を知るきっかけになった大元の原因は、貴女の能力だろう」


 キラキラと輝く金髪を乱暴に骨ばった手でかきあげた彼は、真顔で目線を下に落としてポツリと吐き出した。


「為政者として見ると、貴女の能力はとても便利だ。

 だが、私はその能力は統治する上では要らないと思っている。叛意があろうと無かろうと、実際にそれを行動に移すかどうかは分からない。準備するギリギリで思い留まる者もいるだろう。最後の最後まで迷い、選択し、決断するのは彼ら自身だ。気持ちだけで罰してしまえば、圧政にしかならない」


 だから、とローデリヒさんは一拍置いて、私を真っ直ぐに見つめた。


「貴女は平穏に過ごしてくれるだけでいい」
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