この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 今まで当たり前のように感じていた事ばかりだった。まるでそれがずっと今まで続いてきた日常のように。身に染みた習慣とでもいうかのように。

 自分の姿が変わっていた事だって、気付くのが遅かった。
 キルシュライト語だって、使いこなすのはすぐだった。
 ローちゃんの存在だって、即生活に馴染んだ。
 アーベルくんの事だって、会った時からずっと可愛がっていた。
 侍女さんなんて初めてだったのに、気にすら留めていなかった。
 お屋敷の事だってそうだ。塀の外から出たいとすら思わなかった。

 片手で自分の額を覆う。何か大事な答えがすぐそこにあるような。私は大事な何かを見落としているような……。

 とても、もどかしい。

 例えるなら、百円玉を落として自販機の下に入っちゃった気分。すぐそこに百円玉が〝見えている〟のに取れないっていうか。
 あれ普通に恥ずかしいんだよね。取ってるとこ見られるの。

 そんなどうでもいいことを思い出しつつ、大事な事を聞いた。


「……今晩から三晩、パーティーって本当にあるんですか?」


 ローブの少女が口にした誘いは、彼女の〝善意〟から来るものだった。
 まるで私が誰かに奪われたかのように。
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