この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 息苦しいから、なんて正直な言葉は続けられなかった。
 だから無理矢理誤魔化した。


「命あってこそだからね。むしろ結婚相手が平民まで広がるんじゃない?」

「呑気な……」


 呆れた視線を向けられたけど、ティーナにも散々心配掛けた。まだ全く心配掛けない訳じゃないし、迷惑も掛けてしまうけど、やっとこの様々な思惑が飛び交う王城から抜け出せると思っていた。

 私の能力のせいで、人を殺める心配はない。おじ様に裏切りを疑われている心配もない。ルーカスの恋路の邪魔もしなくて済む。


「しかし、恋か〜。私にも出来るのかなあ?好きな人」

「急にどうしたんだい?」

「いや、ルーカスとティーナを見てると恋って羨ましいなあ……と。なんか二人の世界って感じで」


 まあ、男の人に恐怖心を持ってしまう時点でそれは遠そうだなあ。


「二人の世界か……そうかそうか」


 ニマニマと一人で笑い出すルーカスに、「なんか気持ち悪い」と言葉のナイフで刺し、順調に進んでいく話に内心ホッとしていた。

 結婚に憧れがなかった訳ではないけど。

 正式に発表されていなかったが、ルーカスの婚約者は私だと暗黙の了解のようになっていた。
 だからその後、ルーカスとティーナの婚約発表でその暗黙の了解を払拭して、あとは修道院の受け入れ体制が整うのを待つだけだった。

 隣国、キルシュライト王国から縁談が届くまでは。
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