この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 息が切れたタイミングで、頭の上から呆れたような溜め息が降りてくる。それどころではないというのに、ローデリヒ様は私の耳元に唇を寄せた。


「アーベルは私が連れ戻してくる。だからアリサは先に私室に戻っていてくれ」

「でも、」


 納得出来なくて口を開いたけれど、ローデリヒ様は私の言葉を遮った。


「身重の貴女が動き回っているとハラハラする。だから、頼む」

「いいえ、私はアーベルが」

「頼むから、」


 もどかしさが積もる。どうして、私のアーベルを探しに行きたい気持ちが伝わらないのか、ローデリヒ様はアーベルが心配じゃないのか、沢山言いたいことがあるのに、混乱している頭では単語だけが浮かんで文章にならない。

 そして、私の言葉を遮る彼に、苛立った。


「どうして、私の言ってること聞いてくれないの?!アーベルの事が心配じゃないの?!」


 ローデリヒ様の胸を思いっきり押した。不意打ちをつかれたかのようにローデリヒ様は後ろへとよろめく。海色の瞳は、見開かれていた。


 ――心配に、決まっている!


 彼の気持ちが痛いほど頭に響いてくる。ローデリヒ様は眉を寄せて拳を握った。


「……す、すまない、!……どうやら私も、動揺していたらしい……。だが、貴女の体の事も心配なんだ……」
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