この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 アーベルの事は必ず見つけ出すから、とローデリヒ様は言い、部屋から勢いよく出て行く。彼がアーベルの事を心配していないはずがない、というのは冷静に考えれば分かったはずなのに。


「私も参ります」


 何故か目を真っ赤にした宰相も、ローデリヒ様に続いて走って行った。侍女が気遣わしげに私を呼ぶ。彼女達の心配そうな気持ちも伝わってくる。

 自分を落ち着かせる為に、ひとつ大きく息を吸った。
 胸の中に溢れそうになる虚しさを満たすように。
 私が王太子の子供を妊娠している大事な身である事は分かっている。それでなくても、私は王太子妃なんだ。

 沢山の人に守られる存在。
 そして、沢山の人に狙われる存在。

 ローデリヒ様の心配はもっともだった。

 だけれど、自分の子供が心配で仕方がない。それなのに、私自身が全く動けない歯痒さと、自分自身は何も出来ない約立たずだった。


「……ちょっとだけ。……もうちょっとだけ、この辺りを回ってからでもいい?大人しく帰るから」


 ここには特に警備している騎士達が沢山いる。そして、近衛騎士も多くいる場所だ。
 不安そうに私を見ていた歳若い侍女達は、ホッとしたように、それならばと頷く。

 諦め悪く廊下を歩く私は、ふらふらと視線を彷徨わせながら、指先が段々冷えていくのを感じた。
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