この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 身近で起こっていた事なのに久しぶりに感じたという事は、私が引きこもっていて、そして、それが許されていたという事。そんなの私だけじゃ達成出来ない。


「……お茶会、ですか?私、ここに来たばかりで知り合いがいなくて……、」


 奥様、と私に呼び掛けそうになっていた侍女の一人を目で黙らせる。少し目を伏せて不安そうな表情を作ると、女性はクスクスとお上品に笑った。


「あら、やっぱり新しく入った子だったのね。随分と可愛い子だわ。貴女なら、わたくし達のお友達も気に入ると思うわ」

「ほ、本当ですか?」

「ええ」


 そして女の人は、その子を離してあげなさい、と私の腕を掴んだままだった侍女に命令を下した。侍女はしばし迷った末に、私の腕を解放する。


「わたくしはハイデマリーよ。貴女は?」


 彼女は家名を名乗らなかった。どこの家の出身かで、彼女がどういった背景を持って、ローデリヒ様を失脚させようとしているのかが、少しでも分かればと思っていたけれど。


 さて、馬鹿正直にアリサ(王太子妃)と名乗るわけにはいかない。


 ――けれど、私は嘘をつくことに慣れている(・・・・・・・・・・・・)


「私は……ヴァーレリーと申します」


 咄嗟に午後から私の元に顔を出す予定のヴァーレリーちゃんを思い浮かべた。特に珍しい名前でもない。ヴァーレリーちゃん、ごめん。少しだけ名前を貸して。
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