この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「ヴァーレリーね。可愛らしい名前だわ。さあ、いらっしゃい」

「は、はい!」


 人に命令する事に慣れている、と感じた。私が着いてきているか確認することなく、女性はコツコツとヒールを鳴らして先へ進んで行った。彼女の後ろには、三人の侍女が静かに付き従っている。女の人のインパクトが強すぎて、侍女の存在があまり見えていなかった。

 引き留めようとする私の侍女に口の動きだけで、大丈夫だと返す。あまりここで問答していては不審がられると、やや早歩きで女性の後ろを追う。幸いにもゆっくりと歩いていたので、直ぐに追い付いた。

 お茶会の場所はあまり離れておらず、無言が苦痛にならない位の時間で到着した。色とりどりの薔薇が咲き誇る温室には、もう既にかなりの数の先客がいる。彼女達は私を誘った女性の姿を認めるなり、皆一斉に立ち上がった。


「あら、皆さん。ごきげんよう。もう集まっていたのね」


 私を誘った女の人の言葉に、参加者はそれぞれ、ごきげんようと挨拶をする。

 なるほど。私を誘ったこの人は、後宮の中でも力を持つ方みたいだ。服装からして豪華だったから、何となく察していたけれど。友人達とのお茶会のはずなのに、急に私を招く程だから主催者かもしれないという推測は、実は少しだけしていた。


「ハイデマリー様。そちらの方は……?」

「ああ、そうだったわね。まだ紹介していなかったわ。ヴァーレリーよ。彼女、新しく入った子なの。皆さん仲良くしてあげてくださいね」


 ハイデマリー様の言葉に、参加者はにこやかに微笑む。初々しくて可愛らしい、なんて言葉を囀る内心で、罵詈雑言が飛んでいた。自己紹介を数人がしてくれたけど、思ったよりも人数が多くて、一人一人を覚えるのが大変そうだ。
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