この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「う〜ん?ローデリヒにそっくりだから、あんまり本家とは血離れてなさそ〜な?いんや、その程度の光属性魔法じゃ……、ん?待てよ?まさか、離婚したゲルストナーのおっさんの……?いや〜、流石にそれはね〜か」


 首を捻っていた男だったが、アーベルが不意をついて逃げ出そうとすると、「まあいいか」と思考を雑に放り投げる。


「捕まえてから、じっっくりでもいいしぃ?」

「っ?!」


 男は的確に頭を狙ってくる。逃げるのにも一苦労しそうだ。だが、捕まってしまう方が面倒な事になる。
 それに、だ。

 アーベルの《光雷撃(ライトニング)》という音と光が派手な魔法でも、誰もやってこない。王太子の私室ならば、扉前の近衛騎士を気絶させていても、誰かやってくると思うのだけれど。

 きっと、この男が何かしているのだろう。例えば、誤魔化しているとか。

 あまりこの魔法は使いたくはない。
 本当に嫌だが、仕方がない。
 しかし、さっさとこの部屋から抜け出さなければ。
 アーベルは、利き足のつま先に力を込めて、床を蹴る。
 そして、魔法を発動した。


「ちょっ?!」


 ギョッとした表情で、男が振り向く。秒で男の背後を取ったアーベルは、思いっきり手に持った短剣の柄を振り抜いた。しかし、驚異の反応速度を見せた男は、床を転がってかわす。


「え……?なんだなんだぁ?!今のなんだ?!」
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