この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 琥珀色の瞳を見開いて、訳が分からないといった男に時間は与えない。男には、少し離れた場所にいたアーベルがいきなり目の前に現れた、そんな風にしか見えなかったはずだ。

 魔力が一気に吸われたのを感じる。だが、追い掛けてこないように、ここでしっかり男を沈めておきたかった。

 だから、また魔法を発動した。
 男の目の前まで迫り、今度は拳で頬を殴り飛ばす。


「ぐは……っ」


 やっと初めて攻撃が通った。拳の感覚では、かなり重く入ったはずだった。だが、男は頬を抑えて、よろけただけだった。

 まだ、足りない。
 魔法を発動する。

 一気に魔力が抜けて、貧血のような軽いめまいが襲ってくる。それでも、足を踏ん張った。
 頬を抑えた男のガラ空きになった腹部に、拳を叩き込んだ。感触から、深く入ったはずだ。


「っ……」


 かなり戦闘に特化しているのか、苦しそうに呻いただけでアーベルから距離をとる。ダメージはそんなに与えられていないらしい。

 一応王城の人間なのだ。味方だ。だから、向こうが本気で戦いにきても、こちらは手加減をしなければいけない。

 その上、相手は強い。
 やりにくいにもほどがあった。
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