この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 魔法を発動する。
 ギシリ、と体が軋む。

 男の後ろを取った。ギシギシと悲鳴を上げだした脚に力を入れる。渾身の回し蹴りを腰に食らわせた。男が吹っ飛ぶ。その隙に窓辺へと向かおうとするが、飛んできた針に足を止めざるを得なかった。立て直すのも、反応速度もはやい。


「な〜んか分かんねぇけど、ソレ(・・)、随分と負荷かかってそうだなぁ?」


 その通りだった。
 時空を行き来出来る能力――、は時空属性の魔法の一つ。今使っている魔法は、時空属性でも自分自身の時間を他よりも少しだけ進めるもの。ほんの僅かな秒にも満たない単位の時間だが、傍から見たら、祖父国王の《光迅速(グリマー)》や、父親の空間転移の再現のようなものが出来ていた。

 だが、時空属性はコスパが悪い。
 一歩間違えたら歴史を変えかねない能力の代償は大きい。膨大な魔力を使うし――、何よりも自分の身体に負担を掛ける代物。

 気軽に使えるものではなかった。

 黙り込むアーベル。男は返事がなくてもよかったのか、アーベルが蹴り飛ばした腰をさすりながら立ち上がる。


「ローデリヒの空間転移的な魔法……じゃね〜し、なんか初めて見る魔法だなぁ。でも、ま、オレの光属性魔法の方が強いし?」


 そう言うなり、男は手首を無造作に振った。光を纏った無数の針は、的確にアーベルに迫る。

 魔法を発動した。
 身体が重い。自分だけ数秒、時間の速度を早めて背後を取ろうにも、肝心な自分の動きが遅ければ意味が無い。早めにケリはつけたかった。


「《光雷撃(・・・)》」

「っ……?!」
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