この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 アーベルは無意識に拳を握り締めた。キルシュライト王家は光の一族。何よりも国民が光を求めている。
 なのに自分は、その力が弱い。

 だが、良いのだ。自分が力を持たなくとも、すぐ下の弟(・・・・・)が光に愛されているから。

 魔法を発動しよう――として、ふと嫌な予感がした。

 アーベルが魔法を躊躇ったと同時に、部屋の扉が盛大に吹っ飛ぶ。

 扉のすぐ側にいた男を思いっきり巻き添えにしていたのを、アーベルは見逃さなかった。辺りに爆発のような轟音が響く。

 アーベルは転がり込んできた好機を逃さず、魔法を発動して部屋の外へと逃げ出す。

 あとに残ったのは――、


「あれ?エーレンフリート、なんでこんな所におるのじゃ?」

「ちょっとどいてください陛下。すげぇ重いオレ窒息死するかも……」


 青紫色の顔をした男と、男に馬乗りになる国王だった。
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